缶サット甲子園2014 大会講評

「理数が楽しくなる教育」実行委員会 会長 土岐 仁



缶サット甲子園は第1回~第3回まで秋田県能代市で開催し,以後,全国大会は普及・周知の面 から各地持ち回りで開催していましたが,今回は「第10回能代宇宙イベント」の記念大会に合 わせ,4年ぶりに缶サット甲子園発祥の地,能代市で開催いたしました.台風や前線の影響によ る天候不順が懸念されましたが,何とか持ちこたえ大会を無事終えることができました.

缶サット甲子園は生徒自らがミッションを設定し,その達成に向けて生徒自身が主体的に取り 組む課程を,ミッション概要資料,事前プレゼン,実競技,事後プレゼンの4つによって評価し ますが,ミッションの目的,意義に対して,いかにそれを確実に実現できるかが重要になって きます.

優勝した法政二高は,自らの体験に基づき「災害救助用缶サット」を提案し,被災者側と救助 者側双方にとって有益な仕様とは何かを良く吟味し,周辺状況の調査,着地後の救出活動,救 援物資投下を2機の缶サットで実現を試みていることと,自作ソフトウェアによるデータの視覚 化,航法制御へも挑戦している.また,説得力のあるミッションの設定,わかりやすい概要資料, すぐれたプレゼンも他校の範となるものです.投下実験ではロケットごと自由落下というアク シデントで缶サットが損傷したにもかかわらず,残りの機能で再チャレンジし,一定の成果を 上げている.このように「想定外」の事態に冷静に対処し,今自分たちができることに精一杯 取り組んだことは大いに評価できる.準優勝の和歌山桐蔭高校は,独自のエアバッグを用いた 衝撃緩和対策とキャリアの改良により垂直着陸を目指したこと,取得したデータの地上への送 信及びリアルタイムグラフ化,さらには缶サットの落下の様子の3D再現等,高い技術力が評価 されました.

敬愛高校は,パラシュート以外の減速装置としてプロペラを取り上げ,プロペラの形状等に関 して粘り強い実験を重ね,発電も兼ねて減速を実現しており,技術賞を受賞しました.缶サット の落下の祭にプロペラが高速回転し,確実に減速している飛行は感動的でした.豊田工業高校は, 人工的に虹を発生させ,そのスペクトル分析により大気や環境を探るミッションを提案し,独自 の虹発生装置と分光器を開発しており,特別賞(アイディア賞)を受賞しました.今後は定量的な スペクトル分析に発展することが期待されます.

一方,賞には届きませんでしたが,慶応高校の皆さんからは自分達が取り組んでいることが楽し くて仕方が無い,という様子がうかがえ,主催者側としてはこの上ない喜びでした.

全体を通して各校とも取り組む内容が高校生のレベルをかなり超えてきていることを実感する反面, ミッションの目的・意義に関して希薄であることと,ミッション概要資料におざなりな点が見られ るのは残念なことです.概要資料はプレゼン以外に文書で自分たちの取り組みを丁寧に説明できる 機会である,と言えばその重要性が伝わるでしょうか.

気になった点を昨年同様再掲しておきます.

  1. ミッションの目的・意義について,単にセンサにより計測することが目的ではなく,何のためにそのミッションを行うのかを十分に検討して欲しい.
  2. センサによる測定は,確実に測定でき,かつその値が正しい値であることをまず確認すること.
  3. センサには規格があり,測定範囲,精度,動特性等が測定したい物理現象にふさわしいものであるかを十分に吟味すること.
  4. 事前に十分な実験をしておくこと.缶サットの降下実験を行わなくても,実験室内でできる実験はたくさんある.
  5. データの取得も動画撮影も缶サットの安定した降下が実現できて初めて意味がある.
  6. データの物理解釈を十分検討すること.
  7. ミッション概要資料は自分たちの取り組みを伝えることができる重要書類である.

既に皆様ご承知でしょうが,次回以降スポンサーの支援が大変厳しい状況になっておりますので, 今までのような形での大会運営は難しいと考えております.これに伴い,レギュレーションも変更 を余儀なくされるものと思われます.主催者側としまして早急に原案を提示する所存ですが,皆様 からの忌憚のないご意見をお寄せいただきますよう,よろしくお願い申し上げます.

 

次回も高校生たちの素晴らしい取り組みに会えることを楽しみにしております.